駐日各国大使館員「谷中ツアー」

 

東京スタディツアー

駐日大使館員・家族と巡る谷中(やなか)

 

東京都台東区の北西部のほぼ中央に位置し、江戸時代から寺町として発展した谷中エリア。幸いにも震災や戦災の影響が少なかったため、今も80もの寺院や戦前に建てられた家屋がそのまま残ります。近ごろは、都市の歴史を学んだり、その土地の人々の暮らしに触れたりといった体験型のものが求められる傾向にあり、昔ながらの長屋や木造家屋とそこに住む人々の生活が垣間見られる谷中の町は、下町風情を楽しむ日本人のみならず、多くの外国人も訪れる人気の観光スポットです。

 

10月23日、さわやかな秋空の下、12カ国25名の駐日大使館員の家族が集い、まずは、西日暮里駅近くの高台にある日暮里・谷中の総鎮守「諏方(すわ)神社」を参拝。ここで一行は、旅の安全を願い、神主さまによるご祈祷(きとう)を受けました。

 

諏方神社を後にして、いよいよ谷中ウォーキングツアーの始まりです。ここからは、谷中界隈の生活文化を大切にし、まちの魅力を未来に受け継ぐ活動をしているNPO「谷中学校」の西河哲也さんと中島尚史さんの2人に案内していただき、2グループに分かれて地域住民の邪魔にならないように注意して散策しました。

 

谷中は、坂の多いことでも知られています。一行が最初に向かったのは、「富士見坂」です。ここは、立ち並ぶ高層マンションの合間に富士山を見ることができる名所ですが、残念ながらこの日はその姿を拝むことはできませんでした。

 

日本各地には、銀座のような賑わいを願って「○○銀座」と名付けられている商店街が相当ありますが、一行はそのひとつである「谷中銀座商店街」へ。揚げたてのメンチカツや作りたてのお惣菜のいいにおいが立ち込める商店街には日用雑貨から呉服までそろっていて、小さいけれど個性的な店舗が並んでいます。参加者たちは、観光客も含め多くの人々で賑わう商店街を散策しながら、日本の庶民的な生活風景の活気を肌で感じていたようでした。

 

 

谷中の路地には、ふたり横に並んでは歩けないほど非常に狭いものが多くあります。一行が次に向かったのは、そんな路地の突き当たりにある「時夢(じむ)草庵(そうあん)」。ここは、大正時代の長屋を一部改装した、谷中在住のアメリカ人墨絵画家ジム・ハサウェイ氏のアトリエです。ジムさんの作品を鑑賞させていただいた後、大行寺(だいぎょうじ)に場所を移し、ジムさんがこよなく愛する墨絵の魅力と下町谷中ならではの日常生活について語ってもらいました。

 

 

昭和の初め、貧しかった頃の日本では、食糧はもちろん場所や感情さえも分かち合うことが当たり前だったし不可欠だったこと。薄い壁一枚で隔てただけの長屋生活ではプライバシーを確保することがほぼ不可能で、それを諦める代わりに、わけへだてのない密接な相互扶助的関係を手に入れることができること・・・。ジムさんの話を聞くと、外国人にとっては日頃疑問に思っていた日本人独特の思考回路や行動パターンが次々と腑に落ちるらしく、参加者たちはみな一心に耳を傾けていました。物質的には豊かになったのに、人間関係はどんどん希薄になっていく現代社会、ジムさんのお話は参加者たちに大きな課題を投げかけました。

 

最後に立ち寄った「谷中霊園」では、徳川家最後の将軍慶喜(よしのぶ)が眠る墓を訪ねました。質素な印象さえあるその円墳は鉄の門に閉ざされていますが、これが確かに徳川家の墓であることを「葵の御紋」が示しています。Last Shogunの墓を前に慶喜についての説明を聞きながら、参加者たちは、彼が実際に生きた激動の幕末に思いを馳せていました。

 

江戸、幕末から平成までの時代がそのまま町の風景として混在している谷中。そこに行くと誰もが懐かしい気持ちになる町谷中で、参加者たちも日本人気質のルーツを垣間見たのではないでしょうか。国際交流サービス協会では日本文化紹介を促進する企画をさまざまな形で展開しております。今後の企画にご期待ください。