在京外国人留学生による阿蘇モニターツアー
在京外国人留学生の「阿蘇地域観光モニターツアー」
当協会は平成25年11月16日(土)~18日(月)に、熊本県阿蘇地域において東京在住の外国人留学生による「観光モニタリング調査」を行いました。これは、阿蘇ジオパーク推進協議会が行う熊本県広域連携プロジェクト推進事業における調査業務を当協会が受託し、企画・募集・運営などを担当して行ったものです。
モニターツアーには早稲田大学および亜細亜大学で学ぶ留学生の中から6カ国(カナダ、英国、チェコ共和国、中国、台湾、韓国)10名が参加しました。
初日は空路阿蘇くまもと空港へ到着後、最初の訪問地である阿蘇市の「大観峰」へ貸し切りバスで向かいました。途中阿蘇外輪山を上って行く際にモニターたちを出迎えたのは、晩秋の阿蘇を象徴するススキの群生でした。ススキが山を覆い尽くす光景を見たことがないモニターたちは、夢中になってカメラのシャッターを切っていました。
阿蘇外輪山上にある展望所「大観峰」へ着くと、ボランティアガイドが展望所入口にある説明板を示しながら、これから見る景色について説明を始めました。しばらくしてアジア系のモニターが一斉に「あっ!」と声を上げました。大観峰から見える阿蘇五岳の連なる姿が、ガイドが見せたスケッチブックの絵によると仏様が横たわる『涅槃像(ねはんぞう)』に見えるということが分かった瞬間でした。その後実際に自分たちの目で見て確かめたモニターは「この『涅槃像』の光景は決して忘れることができないと思います」と感慨深げに話していました。
続いて訪れた小国町(おぐにまち)の「道の駅小国ゆうステーション」では、タッチパネル式の多言語観光案内板をチェックするなど案内所としての機能を確認しました。またガラス張りのユニークな建物にも興味を持ち、ガラスの外壁に映った自分たちの姿を記念写真に収める一幕もありました。
初日最後に見学したのは小国町の「鍋ヶ滝」でした。9万年前の阿蘇山大噴火の痕跡を残すこの滝は、内側が削れていて人が内側を通ることができます。モニターたちは静かな森に響く滝の音を聞きながら、滝の裏側から外を見たり、内側の壁に9万年前の痕跡を探しながらボランティアガイドの話に聞き入っていました。「ガイドなしに来る個人旅行者のために、説明板やパンフレットがあるといいですね」とモニターの1人が提案しました。
初日の宿舎は小国町杖立温泉(つえたておんせん)の「ふくみ山荘」でした。杖立温泉は杖立川沿いの谷間にある昭和レトロの情緒が漂う温泉街です。背戸屋(せどや)と呼ばれる入り組んだ路地裏沿いに旅館や民家がぎっしりと立ち並ぶ独特の景観が魅力です。ふくみ山荘は背戸屋の階段をしばらく上ったところにあるアットホームな旅館で、田舎の家族に迎えられたような温かさを留学生たちは感じたようでした。新鮮な馬刺しと山の幸がテーブルを埋め尽くす夕食を堪能したり、杖立独特の『蒸し場』(自噴泉を利用した共同の無料蒸し器)でサツマイモを蒸して食べたり、露天風呂でリラックスしたりと温泉文化を楽しみました。
(背戸屋巡り動画http://www.youtube.com/watch?v=WC0PKij0QDM)
2日目の最初の訪問地は南小国町の「押戸石(おしといし)」でした。外輪山の草原地帯にある小高い丘に、いくつもの巨石がまるで人工的に配置されたかのように並んでいて、土地の人たちの間では古くから神聖な場所とされていました。当日は雨模様の悪天候でしたが、不思議な巨石群とその丘からの広大な草原の景色に多くのモニターが感動しました。
次は産山村(うぶやまむら)の「池山水源」を見学。草木の多い自然豊かな地域にある清らかな水源で、日本の名水100選にも選ばれています。水流に足を漬けることができる足水場もあり、夏は気持ちが良いことでしょう。今回は紅葉シーズンで、留学生モニターたちは赤く染まった木々とそれを映し出す水面を背景にしてしきりに記念撮影をしていました。
阿蘇市の市街地ではまず「阿蘇神社」を訪問。ボランティアガイドの案内で境内を見学しました。神武天皇の孫と伝わる健磐龍命(たけいわたつのみこと)を主祭神とする神社で、建築物の多くが国の重要文化財ですが、特に楼門は日本三大楼門に数えられています。ガイドの説明で阿蘇神社の歴史を理解すると同時に、参道が全国でも珍しい横参道で楼門の左右に鳥居があることを知り、モニターは他の神社との違いを理解しました。「外国人旅行者にはせめて英語のパンフレットがあると阿蘇神社のユニークな点が理解されますね」との意見がモニターから聞かれました。
阿蘇神社横参道の北側にある門前街は豊富な湧水を利用して商店街の活性化を行いました。モニターたちは、ガイドの案内で店舗ごとに工夫を凝らした水基(湧水飲み場)巡りをした後、各自昼食をとりました。湧水と緑が清々しい商店街を散策しながら気に入った店に入って食事をしたり、名物の馬ロッケ(馬のひき肉が入ったコロッケ)を頬張りながら土産物を物色するなど、それぞれ街歩きを楽しみました。
午後は阿蘇観光の要である「阿蘇駅」およびその周辺の外国人対応、インフォメーション機能の確認を行いました。モニタリング中にも火口へ向かうバスを待つ外国人個人旅行客をたくさん見かけるなど、阿蘇駅が交通拠点として重要であることは明らかです。各モニターは自国語での掲示、説明板などを熱心に調査して、修正するべき点を後日の報告用に写真に撮っていました。
この日のメインイベントの1つは、阿蘇中岳火口の見学でした。火口へ上がるロープウェイが濃霧のため運航休止中の間に、ロープウェイ駅構内の多言語掲示物の確認やロープウェイ車内の外国語アナウンスのチェックを行いました。その後天候が回復したため、火口へ上がりましたが風向きで火山ガスが強くなったため短時間の見学になりました。霧が濃くて火口をはっきり見ることができず火山ガスは不快な刺激臭でしたが、バスに戻ったモニターたちは本物の火山を間近に体感したことにすっかり興奮した様子でした。
2日目の宿舎内牧温泉の「阿蘇ホテル」に夕方到着したモニターたちは、地元観光関係者との意見交換会に参加しました。宿題となっていた阿蘇観光資料(英語または多言語)と多言語WEBサイトの評価に関して各モニターが意見を発表した後、2日間の訪問地に関する感想をモニターが撮影した写真をプロジェクターで映し出しながら発表しました。
最終日は山都町(やまとちょう)の景勝地「蘇陽峡(そようきょう)」見学からスタートしました。南外輪山に連なる標高550mの高原にある渓谷で、秋の紅葉シーズンは特に美しいと言われています。遊歩道を散策する時間がなかったため、長崎鼻(ながさきばな)展望台からの眺めを楽しみながら地元の方に説明していただきました。
山都町ではもう1カ所道の駅「そよ風パーク」に立ち寄り休憩、買物をしてから、高森町の酒蔵「山村酒造」へ向かいました。阿蘇地域に現存する数少ない酒蔵の1つで、外輪山の伏流水で名酒霊山を作っている山村酒造では、簡単な蔵見学と試飲をさせてもらいました。山村唯夫社長自らご案内いただき、帰りにはお土産まで頂いてモニターたちは感激していました。
午前中最後の訪問地は南阿蘇村の「白川水源」でした。熊本市内を流れる白川の水源で、毎分60トンもの美味しい軟水が湧き出しています。また白川水源では水源を見学するだけでなく、和紙の紙漉き体験ができ留学生モニターに人気でした。敷地内に白川吉見神社もあり、清らかな水源であるだけでなく神社や和紙作り体験などがこの水源観光の魅力を高めていることがモニターのアンケート回答から読み取れました。
最終日のランチは南阿蘇村「あそ望の郷くぎの」の「あじわい館」で食べました。地元で採れた新鮮な野菜などで作った田舎料理の小鉢をビュッフェ形式で自由に選ぶことができ、料金もお手頃なのでモニターに大変好評でした。窓際の席からは阿蘇五岳の南側が一望できるので、食後のコーヒーを飲みながらもっとこの景色を眺めていたいと言うモニターもいました。
モニターツアーの最後には、地鶏料理が有名な西原村のレストラン「やまの囲炉」を会場に、意見交換会を行いました。英語圏モニターの中の1人の写真を1日目から通しで見ながら、3日間のモニタリングを振り返り、課題や問題点を洗い出しました。その後各言語について、特に問題があった掲示、案内板等の写真を見ながら指摘し、地元観光関係者に報告をしてモニターツアーを締めくくりました。